書店員・応援&感想コメント

「夜明けの図書館」では、2巻目から吉田倫子様にご協力をいただいております。今回はどのような経緯でご協力いただいたか、普段どのように監修していただいているかの打ち明け話をご紹介させていただきます。こちらは、「学図研ニュース2016年12月号」の再掲載になります。埜納先生の再掲載文も併せてお楽しみください。

1963年東京都生まれ。
島根県立隠岐島前高等学校司書(2017年4月〜)、
前職は横浜市立図書館司書(1991〜2017年、計26年間勤務)、
立教大学卒(1986年度社会学士)、
慶應義塾大学大学院卒(2016年度図書館情報学修士)。
日本図書館協会認定司書(第1090号)、
JMLAヘルスサイエンス情報専門員(基礎)、
前ヤングアダルトサービス研究会代表。

吉田倫子

「マンガ『夜明けの図書館』に関わって~監修者の打ち明け話」

吉田倫子(日本図書館協会認定司書第1090号、公共図書館職員)

 早いもので、『夜明けの図書館』(埜納タオ著、双葉社、既刊4巻)のお手伝いを始めて4年以上が経過した。きっかけは1巻が出た直後に、作者の埜納タオさんがカレントアウェアネス掲載のインタビュー(参考文献1)で「続編を制作するにあたり,取材やアドバイス等にご協力いただける頼もしい図書館員の方を探しています」とおっしゃっているのを読んだことである。埜納さんのブログにメールを送ったところ、担当編集者からご連絡をいただいてお付き合いが始まった(ちなみに、当初手を挙げた関係者は二人、現職の司書は私だけと言われ、図書館員の奥ゆかしさを痛感した)。

○担当編集者を間に入れる理由

当初最も気を付けたのは作家さんとの距離の取り方で、作品についての基本的なやり取りは、必ず担当編集者を通して行っている。これは、過去の作家とのやりとりの経験から考えたことである。一つは図書館団体主催のとある作家の講演会の質疑応答の経験。既に図書館界からの作品に対する批判にナーバスになっていた作家が、会場からの質問に気分を害して席を立ってしまった現場に居合わせたことがあって、生身の作家のナイーブさに驚いた記憶があるのだ。もう一つは、学校図書館を舞台にした小説を、作家が図書委員や学校司書と一緒に作るプロジェクトに関わったこと。担当の編集者を間に入れず、複数の人の多様な意見を直に一人で受け止めるその作家のメンタルのタフさに内心舌を巻いていたのだけれど、だんだんその人が書けなくなっていったのを目の当たりにした。もちろん書けなくなった原因は他にもあるのだろうけれど、現場は、現実はこうである、というたくさんの提案や意見を直接受け止めすぎたことが、自由に作品世界を動かす作家の創造の翼を縛ってしまった、という部分はやはりあったのではないか…と考えさせられた。
そこで、本作をお手伝いするにあたっては、編集者というフィルターを通すことで、作家に届く情報をコントロールしようと考えた。内容だけでなく時期や情報量など、作家の性格や状態、タイミングも鑑みて、何をいつどう渡すのがよいかを最も分かっているのは担当の編集者のはずであり、やり取りの全てをその人(増尾さん)に委ねることにしたのだ。それが功を奏したのかどうか、現在まで長く伴走することができ、チームとしての信頼感も強く醸成されてきているように思う。また、作品内容についての直接の助言だけでなく、帯コメントの募集や講演会の調整、取材先の選定についての相談やアテンドなど、お手伝いの範囲が広がっていったのも、作品にまつわって発生する様々な業務を行っている、担当編集者とのコラボあってのことだと思う。この場を借りて、いつも細やかな心遣いをいただいている増尾さんに心から御礼を申し上げたい。

○作品への助言あれこれ

最初の頃のお手伝いの様子については「みんなの図書館」で少し書いた(参考文献2)が、その後も回を追うごとに深く関わるようになり、最近ではキャラクター設定やプロットの段階から見せていただいている。そうしたやりとりの中で、"ある言葉や事象、事物が気になる"という埜納さんの発想から、それを調べるにはどんなルート(ミスリードも含めて)があるか、複数の可能性を私が説明する段階がある。
第9話(第3巻の1話目)で、"すずなり星"(昴の広島弁)をどう探すか、というお題をいただいた時のこと。レファレンスとしての最速で最短の正解は「海外の定番の星の事典を見ても出て来ず、日本的な名称であるという気づきから『日本国語大辞典』を見て記述を発見する」だったのだが、それだとエンターティンメント性に欠ける(もっと紆余曲折がないとレファレンスの物語としての盛り上がりがない)ので、「ひなこと奏太のやりとりから、司書がそのことばが方言である可能性に気づき、『日本方言大辞典』を見る」というルートが採用となった。レファレンスとしての最適解が物語を作る上での最適解とはならないこと、レファレンスにはいくつも解明に至る道があるが、どのルートを通るかでストーリーがガラリと変わるということに気づいた時、面白いな…と思った。
また、この回では実在書名の使用と出典の明記を提案した。ちょうど当時流行っていた『ビブリア古書堂の事件手帖』は書名だけでなく版や出版社まで正しく使い、それが事件の鍵を握るのも面白さの要因となっていた。しかし、本作では鍵を握る本が架空であることが多く、以前から気になっていたのだ。そこで、「『日本方言大辞典』や『日本の星 星の方言集』(野尻抱影)はこれ以外にはあり得ない!という名著たちなので、本へのリスペクトを込めて実在の本を使ってほしい。そうすれば読者の知識も深まるし、マンガとしての格もあがるはず」とお願いし、その後は実在の資料も登場するようになった。
第12話(鉄道の未成線探索で公文書館へ照会する話)では、話の主軸をレフェラル・サービスに置くことを提案した。「その資料は自館にはない。うちではできない」となった時に次の相談機関にいかに上手につなげるかも司書の腕の見せ所であること。図書館とは、そうした知のネットワークの最も市民に近い窓口であり、資料はなくともそうした知の網を知り、その使い方を市民に伝えること(=レフェラル・サービス)も、大事な仕事であることを、まだ新米のひなこに実感して欲しかったし、物語を通して読者にも伝えたかったのだが、うまくできていただろうか?
そのほか、プロットに絡めることのできる図書館界の旬のトピックスがある時は提案するようにしている。例えば第7話の歴史的音源や第11話の医療・健康情報サービス、第14話のレファレンス協同データベースなどがそれにあたる。廃棄選定や蔵書点検など自分の経験で説明できることもある一方で、私以外の人の話を聞いた方がいいな、と思うこともある。第15話の非常勤職員の小桜さんには、フェイスブックで私と繋がっている非常勤職員の経験と想いが投影されている。第14話の十団子は静岡県立図書館の知り合いにお願いして模擬回答を作成してもらった。第16話では、調布市立図書館を紹介して障害者サービスの真髄とマルチメディア・デイジーに触れていただいた。本当にたくさんの方に協力していただいたし、今後もお世話になると思うので、お友達の皆様、よろしくお願いいたします!

○司書として、作者と編集者を支える

お手伝いしていて思うのは、物語を作るという行為はとても孤独で、繊細で、苦しい作業であるということ。そして、作家さんは常に書いた作品への反応をとても気にされているということ。だから私は、それでは噓になってしまうと思った時だけ軌道修正し、基本的にはその方向で大丈夫だと声をかけて伴走を続けている。この話の監修をしているというと、もっと先端的なことを書いた方がいいとか、このサービスを書いてはどうか、など様々なアドバイスをいただくが、「次回はこのネタでいきましょう」という誘導は極力行わないようにしている。物語はあくまで作家さんのものだからだ。考えようによっては、これも課題を抱えた現場へのエンベデッド・ライブラリアン的なかかわり方なのかもしれない。
第16話のディスレクシアの少年の物語を作る際、私が埜納さんと編集さんに送った以下のメール文が、最もこうした姿勢を物語っていると思うので引用する。

今、ディスレクシアの子どもへの関りという面で、日本の公共図書館は大変遅れていることを、ひなこも、私たちも、まずは理解することが重要なのではないでしょうか?知らないこと、やっていなかったことをいきなりできたように書くことは、きっと嘘になります。けれど、自分たちがどんなに遅れているか、今まで何もしてこなかったかを知ること、その上で最初の一歩を踏み出す姿を描くことは、ディスレクシアに対する日本の図書館サービスの夜明けを描くことにほかならないのではないでしょうか。「できないこと」を理解しないと、できるようにはならない。これほど、第4巻の巻末を飾るにふさわしい話はないとも思います。私もまだ知らない、新しい明日の図書館への道を、指し示してください。それが、想像力の翼を持った「お話」の役割だと思います。

<参照文献>
1)「マンガ『夜明けの図書館』の作者・埜納タオさんインタビュー」カレントアウェアネス-E,No.207, 2011.12.22(http://current.ndl.go.jp/e1252
2)「『夜明けの図書館』の著者、埜納タオ先生に聞く!」みんなの図書館2014年5月号(No.445)

出典(学図研ニュース2016年12月号)

埜納タオ

はじめに

みなさま、はじめまして。
双葉社ジュールコミックスより『夜明けの図書館』という漫画を描いている埜納タオと言います。
このたびは、学図研ニュースに執筆のご依頼をいただき、ありがとうございます。
『夜明けの図書館』は、現在、1~4巻まで発行されていて『ジュールすてきな主婦たち』という雑誌で2010年12月号よりシリーズ連載しています。今年5月に第4巻を発行した際に、たくさんの学校司書の方から激励のメッセージを賜りました。この場をおかりして、お礼を申し上げたいと思います。優しくて熱い言葉を贈ってくださり、本当にありがとうございました。
私自身、学校図書館の制度等につきまして、まだ掘り下げて調べた事がなく、みなさんの職場を取り巻く環境について知識や理解も乏しいままです。ご意見の中に「学校図書館と公共図書館との連携を描いて欲しい」などの要望もあり、今後の漫画づくりの参考にさせていただくつもりです。

なぜ、図書館という空間を舞台に選んだのか

"図書館を舞台にした漫画"を選んだのは、前任の担当編集者からの提案でした。実際に図書館でレファレンス・サービスを利用された際に「まだ漫画のテーマとして扱われていないジャンル、本の探偵みたい!」と閃かれたそうです。私は、恥ずかしながら"レファレンス・サービス"という言葉すら知りませんでした。ですので、お話をいただいた時は、正直難しそうだな…、と躊躇いましたが、 レファレンス・サービスについて調べたり、近隣の公共図書館の方にお話を伺ったりしていくうちに、「誰かの"知りたい"をお手伝いする仕事=レファレンス・サービス」に魅力を感じていきました。
事例集を見ると、身近なことから国際的なことまで内容も多岐に渡っていますし、利用者の年齢層も幅広い。私は、いわゆるイケメンや美少女を描くのは不得手ですが、子どもや年配者、動物などを描くのは好きです。毎回ゲストキャラとして、色んな世代の利用者が描けるのも楽しいのでは?と思い、具体的に構想を練っていきました。
『レファレンス・サービスを通して、主人公の葵ひなこが司書として成長していくお話』という方向が定まり、立ち上げに至りました。
この漫画に取り組むまでは"図書館は本を貸し出しするだけの箱モノ"という認識でしたが、実にさまざまな図書館活用法があり、人の交流の場でもある。いまは"図書館は生きモノ"と考えています。

図書館に入ったときに確認するポイント

エントランスには、催しなどの印刷物が設置されている事が多いので「どんなイベントをされているのだろう?」と見渡します。ユニークなイベント等あると、企画された方を想像し、思わず口元が緩んでしまいます。中へ入ると、やはりカウンターの図書館員さんの雰囲気が気になります。利用者とのやりとりの声が聞こえたりすると、ホッとします。『夜明けの図書館』を描き始めた当初は、あまり各館の違いがわからなかったのですが、最近はその図書館が持つカラーや温度の違いを感じられるようになりました。ただの思い込みかもしれませんが…。居心地がいいな、と思える図書館は、職員の方の笑顔が多いように感じています。

そのあとは、全体的にどのような利用者が多いか、書架の本の鮮度(?)や並びを見ながら、館内をぐるりと一周します。最後は、郷土資料のコーナーで長居するのがお決まりのパターンです。

学校図書館に対して

残念ながら、私が育った町には充実した図書館がありませんでした。公民館の中の一室が図書室で、蔵書に魅力が感じられず、もっぱら書店を自転車でハシゴする少女でした。学校図書館はいつも鍵がかかって閉じられた部屋、という印象でした。昭和の時代のことなので、現況とはずいぶん異なっていると思います。
2巻に収録の第8話「笑顔のバトン」では、山下透子先生という図書室の先生が登場します。小学時代の葵ひなこに影響を与えた先生、という設定です。転校生で新しい学校に馴染めないひなこは、図書室だけがホッとできる場所。そして「また、おいでね」と必ず声掛けをしてくれる透子先生にだけ心をゆるしています。
私は、20代の終わりに、1年程ですが、出身校である地元の中学校で美術の非常勤講師をしていた経験があります。その時に、最初にとても驚いたのがクラスに2、3人不登校の生徒がいる事でした。私が在学中の時は、42人クラスが9クラスあったのですが、不登校の生徒は学年全体で数名だった記憶があります。背景にはそれぞれの事情を抱えているのでしょうが、非常に残念に思いました。また、学校には来ることはできるけど教室に入れない、という生徒も幾人かいて、彼らは保健室や特別に用意された部屋で一日の大半を過ごしていました。その時、私は「図書室が開いていれば…!」とよく思っていました。
本はたくさんの出会いがあります。図書室はそんなチャンスに溢れています。教室に居づらい生徒の居場所のひとつとして最適なのでは…、そして教師や保護者とはちょっと視点の違う図書の先生が居てくれたら……という想いがあり、第8話「笑顔のバトン」を考えました。
非常勤講師時代、生徒から見れば私は"先生"というにはひどく頼りなかったのでしょう、気さくに悩み相談をしてくれる生徒が何人かいました。ほんの少しだけ、斜めの関係として役立てたのかもしれません。雇用条件などで、難しいかもしれませんが、学校図書館が子どもたちにとって、より身近で安心な場所になればと思います。
透子先生のイメージモデルは、実は私の中にちょっといて、少し前ですが(2012年3月18日朝日新聞掲載)朝刊の記事で知った「みんなでつくろう学校図書館」(成田康子著 岩波ジュニア新書)の作者の方です。いつも生徒たちに「また、おいでね」と声を掛けられていると知り、とても素敵な言葉だと思いました。生徒じゃなくても「また、おいでね」と優しくされたら私だって行きたくなります! すべての存在を許容して肯定する懐の深い言葉だと思います。

「図書館文芸部」の活動について

私が住んでいる町の図書館には、中高生からなる「図書館文芸部」があります。現在は20名の登録があり、活動ペースは月1。ヤング・アダルトコーナーの企画からPOPづくりまでを部員が担っています。展示する本は、彼らが探して集め、欲しい本がなければリクエストし図書館が購入しています。学校の図書室で人気の本リストや、勉強している内容に関係する本を展示したり工夫を凝らしています。面白い一例としては、部員自らが「乙女系男子」「ボーイッシュ女子」というキャラクターを考え、この2人の趣味という設定で、テーマに沿った本を集め、コーナーを作りました。
発足のきっかけは、学生の図書館利用が少ない、YAの本はほとんど借りられない等の状況があったそうです。「コーナーの本は見向きもされない。私たちの感覚がズレてしまっているのではないか」と職員の方はずいぶん悩まれたそうです。
現在は、学生の利用も徐々に増え、大人からは昔を懐かしむ声、またYAの棚の本をきっかけに娘と会話が増えたと喜ぶ男性など、他年齢層への影響も大きいそうです。小学生女子は、ちょっと大人の匂いがするものが好きなのか、YA展示に恋バナ関係のものがあると寄ってくる…など、新たな動向も掴めたとか。
当初は、YA棚の活性化と彼らの流行を知りたい一心で図書館活動に加わってもらったものの、現在は掛け算みたいに影響が広がり、児童には児童書から一般書へ繋げる大切な存在、一般には若い世代を知る面白い棚になっている、と職員の方は実感されているそうです。
私自身も「図書館文芸部」の活動に参加していて、部活気分を味わっています。トルストイを読んでいる男子部員がいたりして「おー、ロシア文学ですか。かっこいいね~」等といった会話を楽しんでいます。

おわりに

『夜明けの図書館』は、担当編集者をはじめ、アドバイスをくださる現役司書の方、取材先の協力等の大きな支えがあって、ここまで続ける事ができました。地味な作品ですが、読者のみなさんに永く読んでいただける賞味期限の長い漫画づくりを心がけています。微力でありますが、今後も図書館や司書の必要性、本の魅力を伝えることができる作品を発表していきたいと思います。どうか永い目で応援してください。そして、学校図書現場での面白い体験談などありましたら、ぜひとも教えてください。よろしくお願いします。

出典(学図研ニュース2016年12月号)