作者紹介&インタビュー

広島県福山市生まれ。兵庫県在住。
1994年『講談社mimi&kiss』
新人漫画賞入選でデビュー。
2010年『JOURすてきな主婦たち』(双葉社刊)
12月号より「夜明けの図書館」のシリーズ連載を開始。
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〔Official Blog〕

 

「夜明けの図書館」作者・埜納タオ先生・スペシャルインタビュー (2013/6/5)
Q1 「夜明けの図書館」を描くことになったきっかけを教えて下さい。
A: 当時の担当さんの提案です。実際に図書館でレファレンス・サービスを利用された時に閃かれたそうです。私にはない着眼点で目から鱗でした。
Q2 ここまで描き終えて、楽しく描けた部分はどのあたりですか?
   逆に、大変だった部分はありますか?
A: 第6話の中学生男子3人組は描いてて楽しかったです。
  チバちゃんがティーンズコーナーの本を手にして走るシーンは念を込めました。
  逆に大変なのは…いつも、ひなこが可愛く描けないこと。
  すまないなぁと思っています。
Q3 読者の方に「ここを見て欲しい」というところがあれば、お願いします。
A:司書として緩やかに成長する、ひなこの姿と…
時折光る大野くんのおでこ。彼も輝いています!
Q4 タイトルはどのようにして決まったのでしょうか?
   ボツになったタイトル案があれば教えて下さい。 
A:「夜明け」と付けたのは暁月市の地名の由来に因んでいることと"明けない夜はない"というように、難題のレファレンスにぶつかっても、なんらかの回答を引き出してみせる、という意味を込めました。
Q5 ペンネームの由来を教えて下さい。
A:「今日中にペンネーム決めてください!!」と押し迫られた日、バイト先の名簿に「小埜(おの)」さんと「得納(とくのう)」さんが並んでいた。
  タオは老子の言葉より拝借して…それで「埜納タオ」。
  変なペンネームですが、字面と名前の響きが気に入っています。
Q6 漫画家を目指されたきっかけは何ですか?
A:勤めていたデザイン事務所を辞めた後、お金はないけど時間だけあって"漫画を描いてみよう!"と思ったのがきっかけです。
運良くそれでデビューできましたが、その後はずっと険しい道のりです。
Q7 原稿を描くときの必須アイテムがあれば教えて下さい。
A:おしりが疲れないよう、低反発のクッションを敷いてます。
Q8 この漫画が面白い!ベスト3を教えて下さい。
A:アオイホノオ/島本和彦
  さんさん録/こうの史代 
  日の出食堂の青春/はるき悦巳
Q9 最近、ハマっていることはありますか?
A:朝ドラの「あまちゃん」
 録画して夜観るのが楽しみです。音楽の大友良英さんの大ファンです。
Q10 最後に「夜明けの図書館」の読者にメッセージをお願いします。
A:派手さはありませんが、身近にありそうな素材を拾い上げ、日常が少しだけ輝くようなドラマづくりを心掛けています。
  読んで頂いた後、なにか温かいものを読者さんの心に遺せたら幸いです。
  今後もどうぞよろしくお願いします。  

埜納タオさん インタビュー

はじめに

みなさま、はじめまして。
双葉社ジュールコミックスより『夜明けの図書館』という漫画を描いている埜納タオと言います。
このたびは、学図研ニュースに執筆のご依頼をいただき、ありがとうございます。
『夜明けの図書館』は、現在、1~4巻まで発行されていて『ジュールすてきな主婦たち』という雑誌で2010年12月号よりシリーズ連載しています。今年5月に第4巻を発行した際に、たくさんの学校司書の方から激励のメッセージを賜りました。この場をおかりして、お礼を申し上げたいと思います。優しくて熱い言葉を贈ってくださり、本当にありがとうございました。
私自身、学校図書館の制度等につきまして、まだ掘り下げて調べた事がなく、みなさんの職場を取り巻く環境について知識や理解も乏しいままです。ご意見の中に「学校図書館と公共図書館との連携を描いて欲しい」などの要望もあり、今後の漫画づくりの参考にさせていただくつもりです。

なぜ、図書館という空間を舞台に選んだのか

"図書館を舞台にした漫画"を選んだのは、前任の担当編集者からの提案でした。実際に図書館でレファレンス・サービスを利用された際に「まだ漫画のテーマとして扱われていないジャンル、本の探偵みたい!」と閃かれたそうです。私は、恥ずかしながら"レファレンス・サービス"という言葉すら知りませんでした。ですので、お話をいただいた時は、正直難しそうだな…、と躊躇いましたが、 レファレンス・サービスについて調べたり、近隣の公共図書館の方にお話を伺ったりしていくうちに、「誰かの"知りたい"をお手伝いする仕事=レファレンス・サービス」に魅力を感じていきました。
事例集を見ると、身近なことから国際的なことまで内容も多岐に渡っていますし、利用者の年齢層も幅広い。私は、いわゆるイケメンや美少女を描くのは不得手ですが、子どもや年配者、動物などを描くのは好きです。毎回ゲストキャラとして、色んな世代の利用者が描けるのも楽しいのでは?と思い、具体的に構想を練っていきました。
『レファレンス・サービスを通して、主人公の葵ひなこが司書として成長していくお話』という方向が定まり、立ち上げに至りました。
この漫画に取り組むまでは"図書館は本を貸し出しするだけの箱モノ"という認識でしたが、実にさまざまな図書館活用法があり、人の交流の場でもある。いまは"図書館は生きモノ"と考えています。

図書館に入ったときに確認するポイント

エントランスには、催しなどの印刷物が設置されている事が多いので「どんなイベントをされているのだろう?」と見渡します。ユニークなイベント等あると、企画された方を想像し、思わず口元が緩んでしまいます。中へ入ると、やはりカウンターの図書館員さんの雰囲気が気になります。利用者とのやりとりの声が聞こえたりすると、ホッとします。『夜明けの図書館』を描き始めた当初は、あまり各館の違いがわからなかったのですが、最近はその図書館が持つカラーや温度の違いを感じられるようになりました。ただの思い込みかもしれませんが…。居心地がいいな、と思える図書館は、職員の方の笑顔が多いように感じています。

そのあとは、全体的にどのような利用者が多いか、書架の本の鮮度(?)や並びを見ながら、館内をぐるりと一周します。最後は、郷土資料のコーナーで長居するのがお決まりのパターンです。

学校図書館に対して

残念ながら、私が育った町には充実した図書館がありませんでした。公民館の中の一室が図書室で、蔵書に魅力が感じられず、もっぱら書店を自転車でハシゴする少女でした。学校図書館はいつも鍵がかかって閉じられた部屋、という印象でした。昭和の時代のことなので、現況とはずいぶん異なっていると思います。
2巻に収録の第8話「笑顔のバトン」では、山下透子先生という図書室の先生が登場します。小学時代の葵ひなこに影響を与えた先生、という設定です。転校生で新しい学校に馴染めないひなこは、図書室だけがホッとできる場所。そして「また、おいでね」と必ず声掛けをしてくれる透子先生にだけ心をゆるしています。
私は、20代の終わりに、1年程ですが、出身校である地元の中学校で美術の非常勤講師をしていた経験があります。その時に、最初にとても驚いたのがクラスに2、3人不登校の生徒がいる事でした。私が在学中の時は、42人クラスが9クラスあったのですが、不登校の生徒は学年全体で数名だった記憶があります。背景にはそれぞれの事情を抱えているのでしょうが、非常に残念に思いました。また、学校には来ることはできるけど教室に入れない、という生徒も幾人かいて、彼らは保健室や特別に用意された部屋で一日の大半を過ごしていました。その時、私は「図書室が開いていれば…!」とよく思っていました。
本はたくさんの出会いがあります。図書室はそんなチャンスに溢れています。教室に居づらい生徒の居場所のひとつとして最適なのでは…、そして教師や保護者とはちょっと視点の違う図書の先生が居てくれたら……という想いがあり、第8話「笑顔のバトン」を考えました。
非常勤講師時代、生徒から見れば私は"先生"というにはひどく頼りなかったのでしょう、気さくに悩み相談をしてくれる生徒が何人かいました。ほんの少しだけ、斜めの関係として役立てたのかもしれません。雇用条件などで、難しいかもしれませんが、学校図書館が子どもたちにとって、より身近で安心な場所になればと思います。
透子先生のイメージモデルは、実は私の中にちょっといて、少し前ですが(2012年3月18日朝日新聞掲載)朝刊の記事で知った「みんなでつくろう学校図書館」(成田康子著 岩波ジュニア新書)の作者の方です。いつも生徒たちに「また、おいでね」と声を掛けられていると知り、とても素敵な言葉だと思いました。生徒じゃなくても「また、おいでね」と優しくされたら私だって行きたくなります! すべての存在を許容して肯定する懐の深い言葉だと思います。

「図書館文芸部」の活動について

私が住んでいる町の図書館には、中高生からなる「図書館文芸部」があります。現在は20名の登録があり、活動ペースは月1。ヤング・アダルトコーナーの企画からPOPづくりまでを部員が担っています。展示する本は、彼らが探して集め、欲しい本がなければリクエストし図書館が購入しています。学校の図書室で人気の本リストや、勉強している内容に関係する本を展示したり工夫を凝らしています。面白い一例としては、部員自らが「乙女系男子」「ボーイッシュ女子」というキャラクターを考え、この2人の趣味という設定で、テーマに沿った本を集め、コーナーを作りました。
発足のきっかけは、学生の図書館利用が少ない、YAの本はほとんど借りられない等の状況があったそうです。「コーナーの本は見向きもされない。私たちの感覚がズレてしまっているのではないか」と職員の方はずいぶん悩まれたそうです。
現在は、学生の利用も徐々に増え、大人からは昔を懐かしむ声、またYAの棚の本をきっかけに娘と会話が増えたと喜ぶ男性など、他年齢層への影響も大きいそうです。小学生女子は、ちょっと大人の匂いがするものが好きなのか、YA展示に恋バナ関係のものがあると寄ってくる…など、新たな動向も掴めたとか。
当初は、YA棚の活性化と彼らの流行を知りたい一心で図書館活動に加わってもらったものの、現在は掛け算みたいに影響が広がり、児童には児童書から一般書へ繋げる大切な存在、一般には若い世代を知る面白い棚になっている、と職員の方は実感されているそうです。
私自身も「図書館文芸部」の活動に参加していて、部活気分を味わっています。トルストイを読んでいる男子部員がいたりして「おー、ロシア文学ですか。かっこいいね~」等といった会話を楽しんでいます。

おわりに

『夜明けの図書館』は、担当編集者をはじめ、アドバイスをくださる現役司書の方、取材先の協力等の大きな支えがあって、ここまで続ける事ができました。地味な作品ですが、読者のみなさんに永く読んでいただける賞味期限の長い漫画づくりを心がけています。微力でありますが、今後も図書館や司書の必要性、本の魅力を伝えることができる作品を発表していきたいと思います。どうか永い目で応援してください。そして、学校図書現場での面白い体験談などありましたら、ぜひとも教えてください。よろしくお願いします。

出典(学図研ニュース2016年12月号)